実生を初めて早3年。
今回は個人的な記録を兼ねて個人的な実生のやり方について書いていきたいと思います。

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今回扱うPachypodium enigmaticum
2014年発表の新種

今回扱う植物はパキポディウム(とアデニウム)なのでパキポディウムの実生方法と題しましたが、他の植物も同じようなやり方で大丈夫だと思います。少なくとも私は今回紹介するやり方で山野草類などを度々実生しておりますが上手く発芽して育っておりますので。土の配合等を変えれば他の植物にも使えると思います。基本的にジャンルが違っても植物である以上実生の基本は同じです.。

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エゾマツムシソウ Scabiosa japonica var. acutiloba
今回と同じやり方で去年の冬に播種。


まずどこから播種用の種子を入手するか。
私は基本的にヤフオクから入手しています。よっぽどの珍種でなければ大抵の種類はここで手に入ります。特に自家採種の種子がおおすすめ。親株の顔も見れますし発芽率も高いです。多少高くても自家採種と表記されている種子を買うのがオススメ。

相場ですが種類によって値段が変動するのでなんとも。ただ大抵の種類なら1000円、高くても3000円程度あれば落札できます。参考までに上記のエニグマチカムは5粒/1000円でした。

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ヒゴスミレ Viola chaerophylloides var. sieboldiana
スミレ類は株の寿命が短いため実生更新が必須

播種時期ですが気温が上がり始めるGW終わり頃がベストです。梅雨時期に入ると雨で温度が下がるため(いわゆる梅雨寒)発芽率が下がります。GW直後なら寒の戻りはありませんし梅雨に入る頃には苗もしっかり根を張り雨に耐えられるレベルになっています。私は春から実生した場合この時期から腰水をやめ雨に当てています。水やりの手間も省けますしガッツリ育つ(気がする)ので。本当は水やりが面倒くさいだけ


ベストは春ですが夏に実生しても大丈夫です。春ほど大きくはなりませんがきちんと面倒見れば冬越しできる程度には大きくなってくれます。夏に実生した場合は本葉が出て、肌が木質化を確認した段階で腰水を切っています。

山野草や湿生植物等、湿原に生息する植物の場合は1回目の植え替えをするまで腰水する場合もあります。パキポに限らず腰水が切る場合は水切れで枯れないよう細心の注意を払ってから切ってください)

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私達が手に入れる大半の種子は輸入種子と呼ばれる外国で採取されたものです。これをナーセリーが発送し面倒な検疫を経て、出品者の手を経由し私達の手元まで来ています。大抵の輸入種子は上記の工程を辿るうちに水分が抜け大抵はカスカスのミイラ状態です。

そんな種子を好適温の土に播種するとどうなるか。大抵の種子はカビます。せっかく苦労して手に入れた種がカビに侵されて死ぬのです。残念ながら侵食された種子はほぼ発芽しません。一応カビた種子から発芽したことは過去に1回だけあったんですが。ほとんどは全滅しましたので……。種子がカビないことに越したことはないわけです。


ではどうすればカビないか。そんなときに活躍するのが上のベンレート水和剤。これの水溶液を実生床に撒いておけば大丈夫です。

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まず10リットルの水にベンレート水和剤を一袋溶かします。昔はもうちょっと濃い濃度でやっていましたが薬害が怖くなったので最近はこの濃度でやっています。もっと濃くても大丈夫だとは思いますが。この辺りはお好みで。


次にベンレートを撒くための用土を用意します。

実生の場合、土をどうするかというのも選択肢になります。普段と同じ土に播種するか、植え替え前提で実生用の柔らかい土を使うのか。人によってはキッチンペーパーに播種するなんて人もいますね。発芽したらそのまま植えるのだとか。私の場合は育成用の土にそのまま播種してます。別に実生用の土を用意するのは面倒なので。私のようなズボラな人にはおすすめです。


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鹿沼土中粒、鉢底石代わりに使用

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ゴールデン粒状培養土(多肉用):赤玉土:鹿沼土:腐葉土=1:1:1:1


実生用の鉢ですがこれも適当なもので良いと思います。私は手軽に手に入るポリポットを利用してます。これに鉢底石を詰めて上記の配合の土を入れていきます。

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土を入れるとこんな感じ。私はこの状態で一度微塵を抜いてます。

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バーミキュライト:ゴールデン粒状培養土=1:1


物によっては表土にバーミキュライトを混ぜてます。特に細かい種子なんかはそのまま蒔くと隙間に落ちてしまうので……。今回の播種したエニグマチカムは種子が小さめだったのでバーミキュライトを混ぜました。

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上記の工程を経て、完成した用土がこれです。この用土に先程用意したベンレート溶液を一度通します。このタイミングで熱湯消毒をする方なんかがいらっしゃるみたいですが私はやりません。ベンレートだけで十分カビ対策できますので。(ベンレート撒いておけばほぼカビない)

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この時点で種子を播種します。今回播種するパキポディウムは好日性なので表土に置くだけで大丈夫です。発芽したら根が勝手に潜りますので。埋めても発芽しますが苗が徒長しますので私はオススメしません。

時間があればここで播種する前に30分ほど水につけても良いかもしれません。私は面倒なのでやりませんが……。ちなみに水の代わりにメネデールにつけるなんて人もいますね。これもまたお好みだと思います。

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播種が終わったら先程のベンレート溶液で腰水し、雨のかからない軒下等に置いて水を切らさないように管理します。運が良ければ3日~1週間ほどで発芽してきます。よほど新鮮な種子ではない限り発芽するかどうかは運です。日頃の行いを正して祈りましょう。


ちなみにこのタイミングで鉢にラップする方もいるみたいですが。私はラップしたところカビるやら徒長するやら散々だったのでやめました。このように開放してても水さえ切らさなければ発芽するので問題ありません。水が切れそうで不安な方はラップしても良いでしょう。

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つい数日前発芽したpacypodium catipes

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adenium obesum
強光で肌が焼けている。肌が焼けた苗は他の苗より木質化しやすい
アデニウムはパキポの育て方が通じるし丈夫で発芽率も良い。初心者にオススメ。


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発芽した苗に1つだけ白い葉を持ってる個体が出現。
このような変異体の出現も実生の楽しみの1つ


発芽した場合は雨が当たらず終日直射日光が当たる場所に置きましょう。パキポやアデニウムなら発芽したばかりの苗でも大丈夫です。肌が焼けますがすぐに順応しますので問題なし。ただ明るい日陰に生えてる種類なんかはやめたほうが良いですね。この辺は種類に合わせて調整してください。

よくパキポは雨ざらしで育てるとガッツリ育つと言いますがこの時点で雨ざらしにすると根が浮いてまず死にます。やめましょう。雨ざらしにするのは根がしっかり育ってからです。

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カクチペスと同じタイミングで播種したPachypodium makayense
ようやく発芽。種類や鮮度によって発芽のタイミングにバラツキがあります。

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pachypodium gracilius
実生2年

今回取り上げたパキポディウムやアデニウムの仲間は成長が早くしっかりと世話をすればすぐに大きくなります。そしてこのような方法で得られたのが上のグラキリスです。現在2年生。完成された現地球も良いですがこうやって自分の手で憧れの種類をじっくりと育て上げるというのもなかなか乙なものだと思います。

種子なら上記に記したように1000円程度で手に入りますしお手軽にチャレンジできます。時間こそかかりますが、手に入れにくい希少な種類も種子なら簡単に手に入りますし、おまけに上手く育てれば希少種を量産できます。また自分の手で1から育った苗は他のどんな植物より愛着がわきます。このブログを読んで気になった方、ぜひお気に入りの種類の実生にチャレンジしてみてください。